保育の基本方針

(1)一人ひとりがかけがえのない存在としてお互いの人権を尊重し合うことができる子どもを育てる。
人はみな限りない可能性を持って生まれ、その能力や個性は一人ひとりの人格が尊重される関係の中でこそ伸びやかに発揮される。したがって、一人ひとりがお互いを尊重する気持ちを持てるような、いじめや差別を生まない、いじめや差別を許さない人間関係づくりに努めることが重要である。
また、幼少期から生命の尊さや人間として基本的に守らなければならないルールに気づかせることにより、豊かな情操や思いやりを育み、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざすとともに、一人ひとりが自分の権利のみならず、他人の権利についても深く理解し、権利の行使に伴う責任を自覚することができる人間の育成をめざすことが重要である。
子どもは、大人に愛され、信頼されることによって、自尊感情を持ち、ひいては人を愛し信頼していく心の根幹を育んでいくとともに、保育者の適切な援助によって、遊びや生活の経験を通して関係をさらに広げ、自主性、自立性、社会性などの芽生えを身につけていく。こうした「人権を大切にする心を育てる」保育の実践を積み重ねていくことが重要であり、ひいては、豊かな人権感覚を持った人権文化創造の担い手を育て、人権が尊重される社会の実現につながる。

(2)子どものエンパワメントを支援し、自らの個性や能力をみがき自己実現できる子どもを育てる。
子どもたちが未来への夢や目標を抱き、創造的で活力に満ちた豊かな社会づくりの担い手として育っていくよう、子どもたちの「生きる力」(自分で課題を見つけ、自ら学び自ら考える力、正義感や倫理観等の豊かな人間性、健康や体力)を育むことが必要である。
特に、乳幼児期においては、「保育所保育指針」で掲げられている「生きる喜び」やその基底となる「困難な状況への対処する力」、例えば、困難なことに出会ったときに負けないで行動できる力や自分の持つ能力を積極的に伸ばしていこうという気持ちを育むことが重要である。
子どもは人との関わりの中で、人に対する愛情と信頼感、自主性、協調性など人間関係の基礎を形成していき、成長する過程において、大人に受入れられ、認め、励まされることを通して自信を持ち、意欲を持てるようになってくる。保育者は、子どもの自主的な行動を受容、促進しつつ、人と協調しながら活動することの喜びと満足感を味あわせることにより、子どもが自らの個性や能力をみがき、自己実現を図れるようそのエンパワメントを支援していくことが重要である。
※エンパワメント:内面化された抑圧を乗り越え、内なる力を発揮し、自分らしさを表現できるようになる過程。変革の主体となる力をつけること。

 

人権保育推進のための基本方向

(1)基本的視点
前述した基本理念を踏まえ、保育所において人権保育を推進していくために保育者が立つべき視点を以下に示す。

(一)子どもの最善の利益を考慮し、子どもが権利の主体として尊重される保育
保育においては、子どもを自己の権利を行使する価値ある人格主体として理解し、一人ひとりについて、人としての尊厳(生命・人格の尊重)を重んじて関わることが重要である。そのため、保護者の生活、価値観、地域の状況など生活環境を十分理解し、尊重した上で保育を進めることが大切であり、子ども一人ひとりの状況に応じた保育を行うことが必要である。
また、すべての子どもたちが性別、国籍、障害の有無、生まれた環境にかかわらず、個人の能力を十分に発揮できる環境の中で保育されることに配慮するとともに、ノーマライゼーションの理念に基づき、支援を要する子どもが自分らしく主体的に生きる力を高めることができるよう必要な地域のサービスに結びつけるという視点を持つことが必要である。
さらに、保育者の態度や感性が、子どもの成長に大きく影響することを十分認識し、保育者としての誇りを持ち、保育者自身の持てる力をより一層発揮することが必要であり、そのため、保育者の人権意識と保育技術の一層の向上を図ることが必要である。

(二)保護者に対する子育て支援、地域における子育て支援
保育は、保護者の協力のもとに実施されることが基本であるが、近年、社会環境が変化する中で、子育てに関する不安感・負担感や子育ての孤立化などから、虐待や放任等不適切な養育が行われている事例や一人で問題をかかえ込み、悩みを抱えて援助を必要としている保護者がみられる。保育所には入所児童の保護者とともに歩もうとする姿勢が求められ、保護者のエンパワメントを支援するという視点が重要である。
また、保育所は、子育ての知識、経験、技術を蓄積している地域社会と極めて密接な関係を有する施設である。入所児童の保護者だけでなく、地域の子育て家庭の保護者に対しても保育所は子育てのパートナーとして積極的に相談・助言等の活動を行い、保護者が子育てについて自ら気づき、行動できるよう支援することが大切である。
地域の子育て力が低下している中で子どもたちが、健康、安全で情緒の安定した生活ができる環境を整え、その健やかな発達を図るため、保育所は、地域社会の関係機関と連携しながら、地域の子育て家庭を支援する拠点としての役割を積極的に担っていくという視点から人権保育の推進を図っていくことが求められる。